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馬尾滝

2006/10/22 涌の滝ゆうのたき(7m)、馬尾滝まのおたき(65m)  福島県只見町

     
    もくじ

  
長い前置き
  集合
  涌の滝
  先人と遭遇
  泥だらけ
  記録が無い
  馬尾滝
  道はどこだ
  この嘘つき
  猛反省
  
忠告(初めて行かれる方は必ずこの忠告から読むこと)
  交通


長い前置き
今思えば、この危険な滝行きは、2006年でなければならなかった。
と、いうのも、んがお工房は今年2006年はとにかく秘境の滝にばかり行っている。雪解けを迎えたGWにいきなり百選の滝のなかでも難関である双門の滝にチャレンジ。もう今年は滝に行かなくてもいいや、と思うくらいがんばった。
だというのに夏に松見の滝を見に片道3時間歩き、翌日に茶釜の滝にチャレンジして私は沢登りは嫌いなのだと実感した。もう絶対に沢登りしないと誓った。
そして、秋。馬尾滝に行ってしまった。2006年は完全に秘境の滝の集大成だ。
遡れば一昨年の話である。2004年の秋に福島県の背戸峨廊でのオフの時に、金さんのキャンカーの中で山と渓谷社の「日本の滝@」を開いて青空に映える馬尾滝の見事な写真に行ってみたいねと軽く雑談した。
そして、翌年である昨年、なんちゃんのお誘いでチャレンジすることに。
しかし、天候がすぐれずに、入り口まで行って断念。新潟の布引滝を見て帰った。(レポはこちら
今年はつまり、そのリベンジである。
実のところ、私は馬尾滝はそんなに大変な場所とは思っていなかった。なにせ双門やら茶釜やらを制覇した自信があるし、噂に高い双門茶釜越えをするような滝があるわけがない、と思っていたのである。
その自信を覆す情報も事前に入手できなかった。
確かに行った人の写真などはあるのだが、どの人も滝までの道のりはサラっと流してしまっている。なんだ、サラっと流せる程度の行程なのだ。
一応とりあえず、「日本の滝@」に片道2時間半とあるので、私の足からすれば3時間くらいかかるだろう。ちょっと時間が長いから大変かなぁ、くらいの覚悟でしかなかった。
そんなこんなで当日、10月22日になった。
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集合
当日の天候は晴れ。週間予報で雨と雨の狭間に唯一あった晴れマークの日である。ラッキーだ。
午前7時に道の駅「いりひろせ」でなんちゃんと待ち合わせをしている。
我が家からは「いりひろせ」は1時間半ほどで行ける。途中、2004年の中越大震災で道路が崩れた箇所の補修をまだ行っていて、時間がかかると思っていたが、ほとんど道は綺麗になっていた。思ったよりも早く到着。予想どおりなんちゃんは前日から道の駅に来ていて、車中泊だった。
  
   
道の駅いりひろせの裏にある鏡池。前からこんな像はあったっけか。
なんちゃんとは双門以来。あいさつなどを交わして、それではと馬尾滝の入り口までそれぞれの自動車で行く。
新潟県がわはそこそこいいお天気だったのに、六十里越トンネルをぬけて福島県に入ったら、いきなり曇った。霧ではなく、山の標高の高い部分に重たく雲がかぶさっているのである。滝が標高の高い場所だとしたら、全く見えなくなりそうな気配にちょっと心配になる。
途中、只見ダムのすぐ下流にある広場でトイレに入り、林道に備えてなんちゃんの自動車に乗せてもらった。
河合継之助記念館を通り過ぎてすぐの踏み切りを乗り越え、塩沢地区に入る。神社のそばを通るのだが、そこには馬尾滝について書いてある看板があり、仮設のトイレもある。とりあえず看板は帰りに撮影することにして、林道に突入。
あれ、この林道ってばこんなに長かったっけか?と思うくらい進む。なんちゃんの自動車でもガクンガクンして走るような悪路だ。昨年はダンナの自動車で乗り込んだのだが、信じられない。ちょっと普通の乗用車では来たく無い感じである。
ようやく林道の突端であるちょっと広くなった駐車スペースに来た。
と、1台のワゴンがとまっている。なんだか、このワゴン、昨年も同じのを見た気がするなぁなどと話す。
ともあれ、出発である。
午前8時20分。前途の困難を全く予想せずに我々は曇り空の下、山道を歩き出した。
  
  
申し訳程度に馬尾滝と書かれた(しかし、文字が消えかかっている)杭が立っている山道の入り口。
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涌の滝
事前の情報どおり、湧の滝までは滝をめぐっていれば必ずこんな山道は歩くよな、といった感じの道だった。
落ち葉が多く、その下がどうなっているのかよく分からずに歩きづらいのを除けば、これと言って特記することもないくらいだ。
    
   
最初、道はだいたいこんな感じだ。出発時点では白くガスっていた。
  
   
大きな朴葉がしきつめられた道。
    
   
小滝を通過する。これは意外と滑らなかった。
熊鈴をうるさいほど鳴らしながら15分ほど歩いて、つるんとした小滝の上を通過。また10分ほど歩いて川を渡るとすぐに河原で出て、目の前に綺麗な滝が現れた。涌の滝である。
川が大きな岩盤を削りに削ったU字の底からストンと落ちた感じの滝である。
  
   
8時45分、涌の滝到着。
  
    
涌の滝
       
岩盤を大きくU字型に削りながら流れた水が、ここでストンと落ちている。
       滝を含む空間が自然の力のすごさを伝えていて、とても気持ちいい。

  
     
落ち口。どういうワケか苔がたくさん生えていた。
    
    
大きさ比較。なんちゃん(左)がほとんど滝壺ギリギリに立っている。
    滝の近くにはダイモンジソウがたくさん咲いていたが、さかりが過ぎていた。

すぐに撮影体制にはいり、おのおの写真に収める。右から左から見ることのできる滝なので、けっこう長いこと撮影した。
さて、この滝、どうやって乗り越えるのだ?
疑問に思うこともない。滝に向かって右側にロープがぶら下がっているのである。そのロープを使って上に行けということだろう。
しかも、ロープの途中くらいに小さな杭があって、馬尾滝と書かれているらしい。そっちに行くのがルートなのね。
だがしかし、なんていう角度なんだろう。ほぼ垂直って言わないか、あれ。
まずなんちゃんがチャレンジして、ロープが丈夫なことを確認。ついでダンナ。私はしんがりで上からルートを指示してもらいながら登った。登ることは登れるのだが、これ、下りられるのか、私?いきなり先が不安になる。
    
   
赤い線がロープ。二箇所あった。黄色い矢印の先に涌の滝がある。
   右は登り始めたなんちゃん。

せっかく高巻いたのに、また下って、川に下りる。涌の滝の上流はこんなに穏やかなのかと思うくらいの川になっていた。
時々小さな滝というか、段差が出現するが、とりたてて問題なくクリアできる。大きな岩が前をふさぐがこれも大丈夫。
だが、水深が少しある渕は越えられない。が、よく見れば踏み跡が対岸とか、別の方向についているのでそちらに入って巻けばよかった。
湧の滝から40分ほど歩いて、ちょっと形のおもしろい小滝に行きついた。落差1メートルほどの二条の滝なのだが、向かって右側の滝が樋状になっていて、しかも、その樋の上に蓋がしてある。自然はなんて面白い造形を作るのだろう。
この滝は右側の巨大な岩の裏側から巻いて超えた。
    
   
どうでもいい場所に木の橋がつるされていたりする。滝の上はなだらかだ。
    
  
 このあたりにはまだ踏み跡がある。モミジも真っ赤に紅葉。
  
   
ちょっと面白いミニ夫婦滝。
  
   
ミニ夫婦滝到着は9時40分。
    
   
右側の流れのアップ。樋状に削られた上に蓋がある。
   蓋の正体は右の写真(帰りに撮影)。硬い石らしい。

10時を過ぎると、どんよりと雲っていた空が前方の彼方で青く抜け始めた。遠い山の紅葉が白い霧とともに日光に照らされて輝くように浮き上がる。この世のものではないような幻想的な光景だった。
  
   
写真では上手く表現できませんでした。本当に綺麗だった。
    
   
川は、大石がゴロゴロしていたり、いきなりなだらかになったりする。
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先人と遭遇
さらに川を遡行すること15分。時折大岩などがあったが、そこまでは高巻くこともなく川の中を歩いて行けた。が、げげっとばかりに立ち止まる。
今までとは違う規模の滝があった。
とは言っても、3メートルほどの滝なのだが、今までは落ちても怪我しないわね、くらいの滝だった。これは落ちたら怪我するでしょう。
その滝の上になんと人がいた。
少し休んでいる様子だったが、我々が躊躇している間に滝の脇の斜面になった岩盤を滑るようにおりて来た。
どうやら、入り口のワゴン車の持ち主らしい。
滝の上は大きくカーブしていてよく見えないので、その人に「この上に滝があるのですか」と訊いてみた。
「滝だよ」とのこと。なんだ、あっさり馬尾滝に着いてしまったのか。と安心した。
近づいて来たその人の言うことには、「今年は水が少なくて残念だ」「昨年も少なかったんだけど」。ということは、この人は毎年馬尾滝に来ているのかしらん。
滝の斜面が急なので、そこを登るのは大変そうですね、と言ったら、「いやいや、滝の上のほうがもっと大変だよ。ここは序の口だ。普通の長靴では無理かもしれない」という返答だった。
え?滝の上?馬尾滝の上には行くつもりは無いんですが。
言葉をよく理解できないでいるうちにその人は下って行ってしまった。
では、目の前の3メートルほどの滝にチャレンジしますか。
滝に向かって左側の岩盤がうまい具合に斜面になっているので、そこをよじ登るのである。思ったほど大変ではなく、滝の上に出ることができた。
  
  
この滝の下で先人と会話。ここを曲がると馬尾滝と思ったのに。
滝の上にはまた滝があった。これも5メートルくらいの滝である。こいつもまた向かって左側の岩盤が比較的傾斜が緩やかで取り付く凹凸もあるので登ることは困難ではない。怖いけど。
この滝はきゅいっとブーメランのように曲がって落ちているのが特徴的だ。
  
    
上まで登ると初めて滝壺が見えるブーメラン滝。
    
    
ブーメラン滝の脇の岩盤を登る。意外と凹凸が多く登ることができる。
ここにきて、さっきの人が言っていた滝というのはこの滝のことで馬尾滝ではないことが理解できた。
ちょっとちょっと、この沢で滝と言ったら馬尾滝しかないでしょうにぃぃぃ。
ということは、この滝の上流が生半可ではない遡行になるんだろうか。
私は立派に普通のおばさん長靴なのに。今までだってつるつる滑ってきゃーきゃー言っていたっていうのに。
5メートルほどのブーメラン滝を登って5分もしないうちに正面に水の少ない高い滝が見えてきた。おお、これこそが馬尾滝か。ホントーに水が少ないではないか。
なんか、しずくがポタポタ落ちるだけの滝だ。
もう遡行したくないのでそう信じようとしたが、なんちゃんが「違います」ときっぱり否定した。60メートル以上あるんだから、こんなしみったれた滝ではないはずだ。
そうだろうなぁとは思ったけどさ、思ったより近くに滝があったほうがいいじゃないのよ。
濡れた岩盤をぽたぽた落ちる滝を正面に見て、流れは左にカーブしている。カーブのハナはナメた流れになっていて、綺麗だ。
  
   
落差はあるがしずくだけの滝。
  
   
しみったれた滝のすぐ前にあるナメ。
  
   
なんちゃんのロープに助けられて遡行。
結局川の中を歩いたり、渕の部分はキャーキャー言ってなんちゃんに助けてもらったりしながら、先人と遭遇した滝から20分強遡行した。
そしたらまた滝にぶち当たった。
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泥だらけ
涌の滝にも匹敵するほどの落差の弧を描いて落ちる滝である。大きな壷があり、これまでの沢の小滝とは様相が違う。滝に至るまでの沢の右手に黒いコードを利用したようなロープがぶら下がっていたので、そこから巻くのかしらん、と思っていた。
だが、とりあえず滝前まで行って撮影である。
滝つぼの周りかちょっと開けた河原のようになっていて、休憩には絶好である。
リュックを下ろして小休止がてら撮影した。
  
   
10時40分、弧滝到着。
  
   
途中でパッと水流を跳ねさせている。
  
   
滝壺は広く、水は綺麗だ。
撮影しながら、あ、気づいてしまった。
滝の右側にロープが下がっている。うーむ、こちらのトラロープのほうが、さっきのコードロープよりもだいぶ丈夫そうなので、こっちのほうが本当のルートなのだろう。
涌の滝の時ほど垂直に近いとはいわないが、こっちもかなり腕力が頼りの登りになりそうだ。今度はダンナ、なんちゃん、私の順で登った。毎度のことながら、私は上からあっちだこっちだと指示してもらわないと登れない。
  
   
赤がロープ。黄色が登ったルート。
   直接ロープに行くよりは黄色い矢印のルートのほうが階段状になっていて楽だ。

滝を登りきると、小さな釜がいくつか並んでいる。落ち着いているときなら綺麗な流れだなぁと思えるだろうが、この先の困難を考えるとそんな余裕はなかった。
滝の上から5分もしないで、我々はハタと止まってしまった。
川が2つに分かれているのである。
今まではとりあえず本流を選択すればよかった。本流とはすなわち、水量の多いほうである。ところが今回はほぼ同等の水量で、しかもY字に分かれているので、どっちが本流かよく分からないのだ。
が、そこは慎重ななんちゃん隊長である。「滝自体は書いてないんだけど」という地図を携帯していた。
私としてはY字の左側の沢のほうがよかった。なんだかなだらかだし、日光が当たって明るい。反して、右の沢はいきなり滝になっている。しかも両側が迫っていて、登るに登れないような滝である。
が、地図を覗き込んでいたダンナとなんちゃんは「間違いなく右だね」という結論を出していた。
そんな予感はしていたのよ。水量的には右のほうがやや多かったもの。
だけど、そうだとして、あの滝はどう登るのだ?
  
   
弧滝の落ち口付近。小さな釜の並び。(これは帰りに撮影)
  
   
少し行くとY字の分岐に行き当たる。
  
   
地図を覗き込む2人。黄色い矢印の方向が正解。
とにかく、とりあえず滝の下まで行ってみて考えることにした。
行動はしてみるものである。
滝の下まで行ってみたら、滝に向かって立って、右側に涸れ沢があるのが分かった。この沢を利用して登って、滝を巻けそうである。
  
    
上の写真の黄色い矢印の先にある滝。
  
    
滝に向かって右側に涸れ沢がある。そこを登る。
駐車スペースを出て2時間半がたとうとしている。このあたりで、そろそろ私の忍耐がぶち切れそうになっていた。どうしてこんな目にあうのよ、いったい私たちは何をしているのよ。と、文句が出てくる。
涸れ沢とは言え、沢ではあるので、じめじめした感じである。斜面は急だし、すべる。左右は泥の崖のようなものだ。
本当にこのルートでいいのか、と思ったあたりでなんとロープが出現した。
ロープがあるってことは、このルートでいいんだ。
ところが、このロープ、使えない。泥だらけの崖にかかっているのだが、それを頼りに登ろうにも足がかりがないのである。
涸れ沢の方も大きな岩が出現して先に進めない状況だ。
そこで数分すったもんだして、とにかくなんとかダンナが岩の上によじ登った。よじ登って、役にたたないロープをなんとか利用して私となんちゃんを岩の上に登らせた。
登ったところでどうする?涸れ沢は本流とは90度違う方向に登っているし、本流の方向には泥の崖がある。ロープがそちらからぶらさかっているということは、とにかくこの泥の崖の上に立たなければならないのである。
どうにか斜面がちょっとでも緩やかで、木が手がかりになりそうなところにへばりつき、泥だらけになりながらよじ登ってみた。
ずずずずーーーー。うえっ、足を置いた場所がどんどん崩れていく。落ちる落ちる。
とにかくブナの若木にしがみつき、泥を泳ぐようにして上に登って行った。
なんとか登ると、ダンナが指さしていた。遠くに滝が見える。
馬尾滝である。
めちゃくちゃな状態だったので写真を撮らなかったが、涸れ沢の左側の泥崖を登りきった場所からは遠くに馬尾滝が見ることができた。
さて、登ったはいいが、これから下におりて川に復帰しなくてはならない。
ロープの先には踏み跡らしきものは全くないし、川の方向に向かってヤブの中を下るしかない。
  
   
ずずずずーーーーー。
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記録が無い
ずずずずーーーー。ブナの若木がなかったら、転落もいいところである。
途中、ダンナが先行して降りた。
おーい、下りられるかー?見えなくなったダンナに大声で問いかける。
「下りられることは下りられるけど、もっと先に行ったほうがいいぞー」
その答えに私となんちゃんはさらに先の方角に進んで、徐々に下がって行った。そしたら、うまい具合に川に飛び出た。河原までは落差もなく、難なく下りられる。
それにしても、ダンナはどこだ?
おーい、と呼ぶと、下流からおーいと返事が戻って来た。
いったいどこにいるのだろうか。私の見える範囲では川は下流側ではちょっと深い渕になっていて、もしダンナが遡行してきているとしたら、もう一度巻く必要がある。
と、なんと対岸の木々がわさわさと揺れ始めた。
うわ、ダンナだ。
わさわさと木が揺れているのは、木をたよりにして対岸の斜面を移動しているのである。わさわさ、わさわさ。どんどん近づいているのがわかる。
まるで熊か何かのようだ。
が、よく見ればダンナのいるとおぼしき木の下は崖。そのまま下に向かってしまったら水の中にどぼんと墜落することになる。
「そこの下は崖だからねー。もっと上流からなら川に出られるよー」と対岸から指示する。
わさわさ、わさわさ。木が揺れてダンナがどんどん移動しているのがわかった。
なんとかダンナとも合流。飛び降りるようにして川に下りたダンナは渕と渕の間に降り立ってしまい、来た道も飛び降りたもんだから戻れずに対岸にルートを模索するしか無くなってしまったとのことだった。
ここからまた川の中を上流に向かって歩いて行く。しかし、ほどなくしてまた深そうな渕に行き当たってしまった。
と、見ると、左側の垂直に近い斜面の木にピンクのリボンが結び付けられているのが見えた。ここは、リボンの方に進めというのか。しかも、リボンの下あたりにロープがあるし。いや、ロープはあるものの、それがくくりつけられていたらしい木が折れてロープごとずり落ちている。
だがしかし、これは上に行くのがルートであるという証ではないか。
垂直に近いが木を頼りに登れない場所ではない。
ダンナがはりついて先に登り、ずり落ちたロープを拾って別の木にくくりつけた。
なんちゃんが登り、私もぶーぶー文句をたれながら腕力で重い体重を引っ張りあげる。
そこから先は思い出したくもない。
とにかくブッシュである。どっちを向いても地面を這うようにぐんにゃり曲がったブナの若木が上下左右どっちにもある。
ピンクのリボンは先にはまったく無かった。
仕方がない、いけそうな場所から上流側に行くしかない。
わさわさ、わさわさ、木を掻き分けながら進んで行く。
いつの間にかダンナとなんちゃんが下と上に分かれた。私はまたなんちゃんの後にくっついて行っていた。
やや下側から上流を目指してブッシュを掻き分けていたダンナがどこまで行ってもルートらしいルートが無いというので、なんちゃんと私は上に向かって登ることにした。
が、がんばって登ってみたら、目前に垂直の白い岩盤がデデーンと現れた。目の前が岩の壁になってしまった。この岩の壁をよじのぼるのは危険である。つまり、上まで登るわけにはいかない。
仕方がないので下って行くとずっと下のほうを横移動していたダンナが「ロープが見える」と言い出した。
げ、本当に申し訳程度のロープが涸れた沢らしい跡の向こうにぶら下がっている。ロープがあるということは、人が入っているということ。つまり、あのロープの場所にルートがあるはずである。
ブッシュを掻き分け涸れ沢にたどりつき、なんとか乗り越えてロープを掴んだ。そして、よくよく見れば、そのあたりのブナの若木はずいぶん昔にノコギリかナタで断ち切られたような斜めの裁断跡がある。この跡を見逃さずにたどればいいはずだ。
だが、そんなに簡単な話ではなかった。その後もう2箇所くらいルートを見失い、申し訳程度のロープの存在でまだルートは続いているとなんとか復帰できた。
それにしても、このロープのせいでいたずらに昔のルートの気配が微かに残っているために、滝○かを自称する我々は進んでしまっていた。ロープさえなければ迷って遭難する恐れもあったわけなので、かなり早い段階で断念して戻っていたはずである。
だというのに、もうダメだ、もう遭難すると思いはじめるあたりでロープを発見してしまうのである。
いったいどこまでこの危うい藪漕ぎは続くのだろう、とうんざりしたあたりで正面に滝がデンと現れた。しかも、滝の真ん中あたりが目の前である。あらやだ、滝下に出るために高巻いていたというのに、滝の正面の滝見台のような場所に出てしまった。
ああ、滝だ。馬尾滝だ。
だが、感動もへったくれもなかった。
目的は滝である。だが目的地の滝下はここではない。さりとて、もうどうしようも無いではないか。
ここで時計は12時50分。
なんと、最後に川から離れてから小一時間もブッシュと格闘していたことになる。
実は、この「記録が無い」の項目の部分は、一枚も写真を撮影していない。涸れ沢を登ってずずずーーーっと下りてダンナと分かれてから1時間半にわたって写真どころではない状況だったわけである。
その時は必死だったので、それほど時間がたっているとは思いもしなかったが、あとで記録を見てみて驚いた。この記録が無い1時間半は、死ぬ思いの実に危ない時間だった。
                                                      ↑もくじへ
馬尾滝
「馬尾滝の延長二百尺、馬尾滝は滝の中間の岩に当たり、水はそれより砕いて粉水となり霧と化して滝壺となって流れる。上は千歳を誇る老松と岩松が繁る。荘厳(←つぶれていて読めない)たる景勝は筆舌に尽くしがたし」と林道入り口の神社に書かれている馬尾滝。
我々は2年前に「見てみたいね」と言っていた滝下から見上げた姿ではない正面の姿を目の前にしていた。
本当にちょうど滝見台のようになっているのだが、自然の地形なので木々が阻んで滝をよく見ることができない。
その木を避けるようにして、少しでも前に出てよく見てみると、はるか下方の滝壺には虹がかかっていた。
途中ですれ違った人が言ったとおり、たぶん水量が少ないのだろう。あまり見栄えのする滝のようには思えなかった。
    
   馬尾滝
     
滝見台のようになった場所から一段下った場所からダンナが撮影。
     左はワンフレームに収まらなかったので、合成している。
     滝の水が最初に岩盤に当たって砕けるあたりが微妙に虹色をしていて、
     最初はその部分に虹が出ているのかと思った。
     虹は滝壺に出現していた。


  
    
12時50分、馬尾滝到着。
    
    
落ち口を彩る紅葉。中間点は柱状節理になっていて細かく分かれる水。
  
    
滝壺は意外に浅い。虹が出ている。
  
    
一段下がった木の障害物のない場所から滝○かが撮影中。
ダンナたちが撮影している場所から少し離れて滝つぼを見ていると、あれ、イヤなものをみつけてしまった。
ロープだ。
滝壺にむかって、この滝見台の左の下のほうにチラっとロープが見える。
つまり、ここからあのロープを使って滝下に行くルートがあるというわけである。
「ダンナぁ、みつけちゃったよぉ」
ロープの場所を示すと、ダンナはここからどうやってロープにとりつくか模索しはじめた。ロープの場所ははるかに下である。だが、滝見台から滝壷までは完全な崖というわけではない。緩やかではないが直角でもない斜面が続いていて、ある程度の危険を覚悟すればロープのある硬そうな岩盤までは行けるかもしれない。
木をつかんで、安定した場所から一段下がってダンナが観察する。
我々のいる場所から滝に向かって立って少しだけ左側方面に登れば涸れ沢があるらしい。その沢を利用して下ればロープにとりつくのはたやすいだろう。あとはロープを利用すれば滝下に立てる。
だが、我々は滝下に行くのは断念した。
時間が押しているし、私的には疲れ果ててしまった。
とにかく腹も減っている。
滝見台とはいえ、平らな場所がほとんどない3人座り込むのがやっとの斜面に陣取って昼食にした。あまりゆっくりもしていられない。これから3時間かかって戻るとしたら、日が暮れるのが早いか我々の到着が早いか、という時間になってしまうだろう。
それでもしっかりお湯を沸かしてラーメンは食べるわコーヒーは飲むわ。あまつさえ、小瓶のワインまで持っていって、飲んでしまっている。(ちなみになんちゃんはちょっとしか飲みませんでした)今まで苦労しているわりに、帰りの苦労をちっとも考えずに飲み食いするあたりが相変わらず素人である。
んがお工房的にはかなりがんばって急いだ昼食だったのだが、なんやかんやで滝前に到着してから50分もその場にいたことになる。
13時40分頃に滝前を出発。本当に日没との競争になりそうだった。
                                                      ↑もくじへ
道はどこだ
小一時間さ迷ったブッシュに再び突入した。今度はなんちゃんが先頭である。帰り道はほとんど全てなんちゃんが先にたって歩いてくれた。
    
   
行きの記録が無い部分。ほとんどアクロバット。
   右は分かりづらいだろうが、はるか下に川がある。その川も滝だったりする。

  
    
黄色い矢印になんちゃんとダンナがいる。木に埋もれている。
    と、とにかくあの三角の山を目指せ〜。

あれほど迷ったというのに、帰りは上手いぐあいに木の切り口を見つけることができて、30分かからずに川から離れた場所に出ることができた。ダンナがロープを結びなおした場所である。
実はここに戻って来れるかどうか、私はとても不安だった。上から見た目印があるわけではないのである。だが微かな踏み跡が残っていたし、地形もわずかながら記憶していた。憎らしいピンクのリボンを見ながら川に下りた時は本当にほっとした。
しかし、もっとその先は大変だった。
まず、どこで川から離れ、どこで川に入ったか、さっぱり分からないのである。上流に向かうのと下流に戻るのとではまったく景色が違う。例えば、ここでダンナと合流したのだ、とか、ここで涸れ沢を使ったのだというインパクトの強い場所は忘れない。そうでない場所、つまり登る時には苦労しなかった場所のほうが困る場合が多かった。
うっかりすると巻き道に入る場所を通り越して滝の上に出てしまう。いったいどこから巻き道なのかわからない。
1度などはすっかりわけがわからなくなり、とりあえず斜面を登れば踏み跡があるはずだとやみくもに登ってなんとか踏み跡を発見した。
行きには難なくパスできた滝なども帰りにはどうやってクリアしたのかわからなくなって立ち往生するシーンもあった。
特に立ち往生の原因は私ばかりが作っていたので、なんちゃんには本当に申し訳ないことをした。もう帰るばかりなんだから、濡れちゃえばいいのにねぇ。
  
   
弧状の滝へ下りて行く。落ちたら滝壺?
とにもかくにもすったもんだしながら、午後4時少しすぎたあたりでようやく涌の滝にたどりついた。どうやって下りるんだろうと思っていたロープも、先におりたなんちゃんの誘導でなんとか下りることができた。
いやはや、ほっとした。明るいうちに涌の滝まで辿り着かなければ遭難だと思っていたのだ。
ここでようやっと3人で記念写真を撮ることができた。馬尾滝前では記念写真どころではなかったのである。
この先は踏み跡がしっかりしているので薄暗くなっても大丈夫である。でも、真っ暗な中は歩きたくはない。
落ち葉に気をつけながら歩くこと25分。やっと駐車スペースが見えてきた。まだなんとか足元が見えるくらいの明るさだった。
16時50分。我々の馬尾滝チャレンジは終わった。果たして、ちゃんと見たって言えるのかどうか、滝下まで行っていないのが難点だが、まあ、正面と対峙することはできたのだ。満足するしかないだろう。
  
    
16時50分、駐車スペース到着。もう薄暗い。
                                                      ↑もくじへ
この嘘つき
さて、泥だらけでなんちゃんの自動車に乗り込み(いや、本当にすみません)林道を走ること15分弱。林道の入り口で馬尾滝と書かれた看板をとりあえず写真に収めることにした。
収めることにして、よくよく看板を見てみて、腹が立った。
馬尾滝は駐車場より約2時間とデカデカと書かれているのである。
に、2時間だとぉぉぉ。
それは、いくらなんでも、どんなに沢慣れした人でも無理でしょぉぉぉぉ。
確かに我々は途中で藪に迷いこんだり、濡れたくないからじたばたしたりで普通より時間がかかっている。だが、全身濡れる覚悟で沢をまっすぐ遡行しても、2時間で行き着くことは不可能だと思う。それをまあ、こんなに大きな文字で。
  
   
黄色い矢印の下に注目。怒るぞ、こら。
しかも、あとでなんちゃんが入手した只見町の観光パンフレットにはハイキング気分でいける滝である、とまで書かれていたそうだ。完全に遭難を煽っているような気がしてならない。いくらなんでも、そんなに気楽な滝ではない。
しかも、4年前2002年にルートが作られたということだが、その作った時点からただの1度もメンテナンスされていないとおぼしい。刈り込みもロープも目印もその時だけのもので、その後は風雨にさらされたままでほったらかしなのだろう。
もし、只見町がそのルートを当てにして2時間と主張し、ハイキングと言い張るのであれば、少なくとも1年に1度くらいはメンテナンスすべきである。
あまりにも無責任すぎる。メンテナンスができないのであれば、滝まで2時間の文字もパンフレットの文言も削除しなければならないだろう。でなければ、それを信じた人が事故にあった場合の責任はすべて只見町にある。
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猛反省
さて、只見町ばかりを責めてはいられない。
実は私とダンナにも反省すべき点は多々ある。
まず、湧の滝から上流はほとんど遡行であるという情報は事前に得ていたのに、濡れるつもりが全くなく、その仕度もしていかなかったこと。遡行であれば、川の石は当然滑りやすく、その対策はすべきなのに、ごく普通の長靴で行った。
ここは沢靴か、もしくは、スパイクつきの長靴でなければならなかった。現にスパイクつきの長靴で行ったなんちゃんは我々よりも安全に遡行できたし早かった。装備を怠った我々のせいでなんちゃんには余計な手間をとらせたことになる。
つぎに行程を甘く見ていたので、荷物が多かった。もっこりしたリュックがブッシュにひっかかって、どれほど苦労したかわからない。
また、なんとか日没前に駐車スペースに到着できたからよかったものの、もし湧の滝より前に日没を迎えていたら本当に遭難だった。暗い中、湧の滝の横のロープを下るのは不可能だろう。結果的に滝下まで下らずに戻ったことが正解だったのだか、実はもっと以前に滝を諦めて戻っていたほうがよかったかもしれないのである。戻り道の迷いがもう少し多ければアウトだった。決して我々の滝行きは、成功ではなく、危うい綱渡りでなんとか無事だっただけとも言える。

忠告
声を大にして言いたい。この馬尾滝については、必ず行ったことのある人か沢の経験者とともに行くこと。絶対に単独では行かないこと。装備はきちんと整えて行くこと。時間に余裕を見て行くこと。体力の無い人、多少の藪こぎさえも経験の無い人は近づかないこと。
このレポを読んで、女性である私でも行けたのだから大丈夫と思う方もいるかもしれないが、運動オンチではあるものの、とりあえず私はある程度の沢歩きをしたこともあるし、藪こぎや道のない山をウロウロした経験もある。経験はサバイバルな状況では最も重要なファクターである。自分にどれほどの経験があるのか、照らし合わせてチャレンジしてほしい。
また、ハードな登山を経験しているからと言って、この馬尾滝が大丈夫とは限らない。なぜなら、登山道とか、遊歩道とか踏み跡とかは後半は全く無いと思ってもらっていいのだ。ついでに言えば中途半端な場所にロープがあったり、忘れた頃にピンクのリボンがチラチラしていたりもするが基本的には目印さえ無い。道も目印も無い場所で移動できる自信のある人だけ挑戦してほしい。
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交通
関越自動車道の小出ICを起点にすると、まず、ICを出で国道17号に合流し、長岡方面に向かう。四日町の交差点で国道252号線にへ。そのままJR只見線と平行して走って行く。途中国道290号線と分岐するが、とにかく国道252号からはずれずに会津若松方面に向かえばよい。
六十里越トンネルをくぐり、福島県に入ると、右側に田子倉湖が見え始める。トンネルがちな道になり田子倉ダムを越えると、道は只見川沿いのなだらかな道になる。ダムの下あたりに広場があり、ここでトイレを利用できる。
只見の町を通り過ぎ、三角形の蒲生山をぐるりと回ってやや走ると、右手に「河合継之助記念館」の看板が見える。その看板のすぐ次の踏み切りを渡る。踏み切りのそばにはわらび園の大きな看板があり目印になる。踏み切りを渡ったすぐ正面に小さく馬尾滝の案内がある。
道なりに左側に行き、塩沢地区をぬけると、左側に神社、右側に馬尾滝の写真つき看板がある。この神社の裏手に仮設のトイレがある。
ここから林道になる。車高の低い自動車は少々困難な林道で、すれ違いも困難だ。スピードをおとして10分から15分ほど走ると林道の終点になる。自動車が3,4台とめられそうなスペースになっている。
そこから踏み跡程度の道を30分弱で涌の滝、馬尾滝は遡行と藪漕ぎで駐車スペースからだと3時間以上時間を見ておいたほうがよい。
熊が出るので、熊鈴は必携。できればラジオなど鳴らしてもよいかもしれない。
もちろん軍手と滑らない足回りも重要である。
泥だらけになるので、その覚悟も必要。
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