2006年春、双門の滝オフ
2006/5/4 双門の滝(落差70m)奈良県天川村
前置き 双門の滝。 その名まえは滝好きの間では秘境中の秘境、近づきたくてもなかなか近づけない滝として語られている。 行ったことのある人のページや、大峰山登山の人たちのページでその行程を見ても並大抵の道のりではない。 まさか、私が行ける滝だとは思っていなかった。 つまり、百選の滝を制覇することを目指しておきながら、この滝だけは行けないだろうなぁと半ば諦めていた滝なのである。 その滝に行こう、と、オフの話が持ち上がった。 おいおい、本気か。 最初は冗談だと思っていた。 そもそも、そのオフの話が持ち上がった会は「いちご会」という関東の滝好きやら山好きやら花好きが集まった会であり、本格的に登山をやる人たちでも本格的に沢登りをやる人たちの会でもないのである。 だが、本気だった。 と、知るや、私も手を挙げていた。こんな機会でもないと、絶対に行けない。いや、行かない。 若い男の子が何人かいれば、私くらいサポートしてくれるに違いない(こらこらこら) そんなこんなで計画は進んで行き、我々を含めて8人が集まってしまった。全員本当に素人である。考えてみれば恐ろしいことだ。 決行は5月4日。我々には5日続くゴールデンウィークの2日目だった。 宿探し さて、体力に自信のある人たちは、自動車に寝泊りして関西を目指し、当日朝五時に集合となる道の駅「吉備路黒滝」に向かうことになる。が、我々は体力は無い。力一杯言ってもいい、本当に無い。そんな人間が前日に慣れない自動車泊をして、過酷な行程をクリアできるとは思えない。さらには、過酷な行程をなんとかクリアして戻った先が自動車泊というのも絶対に困る。それでは新潟に帰りつけない。 そんなわけで宿を探すことになった。 問題は、4日の朝の集合が早朝の午前5時ということ。そんなに早く出発できる宿となると、ビジネスホテルくらいだろうか。 だが、ちょっと地図を見てもらうと、奈良県の道の駅「吉備路黒滝」がどれだけ辺鄙な場所にあるのかわかると思う。ビジネスホテルを望むのは無理だ。では、公共の宿はどうだろう。トレッキングなどする人がいるとしたら、早朝発はオッケーじゃなかろうか。 空いてなかった。 うーむ、さすがにゴールデンウィークである。 こうなりゃ仕方がない。黒滝村のホームページに出ていた民宿にあたってみることにした。 なんと、1発目で取れてしまった。しかも、普段であればそんなに早朝に出発するのはお断りしているところだが、当日ちょうどその民宿の人も用事があり早起きするんだそうだ。で、午前4時に朝ごはん、4時半出発でオッケーしてもらった。ありがたいったらありゃしない。 これで前日の睡眠は約束された。 あとは当日の疲労を癒す宿である。 これが困難を極めた。 いや、本当にゴールデンウィーク恐るべしである。 今まで直前でもネットの宿予約サイトを2つくらい探せば、大抵希望の金額や設備、場所の宿が探せたものなのだ。が、今回ばっかりは全く空いていなかった。場所が関西の人たちがゴールデンウィークに出かけたくなるような場所なのか、世界遺産の大峯奥駈道の入り口だからなのか、とにかくびっしりだ。 では、奈良市まで足を伸ばして、と考えたが、これもまたNG。そりゃそうだ、古都奈良の観光客のために宿は一杯になっているというわけだ。 困った。 ほぼ毎日ネットで調べて、ようやく温泉でも観光地でもない東吉野村の宿が一軒みつかった。迷う余地なく予約。とりあえずほっとした。 奈良へ 新潟から奈良というのは、意外に行きづらい。 いっそ大阪、京都だと日本海沿いの福井まわりのルートを取れたりするのだが、奈良だとあまりに遠回りになってしまう。 どうしても名古屋を経由しての中央突破しか適当なルートがない。そのルートとなると、あら、やだ、途中に飛騨高山を入れられるじゃない。飛騨高山といえば、臥龍桜。ちょうど今が見ごろじゃないの。 完全に確信犯的に予定を組んで、岐阜県経由の奈良行きになった。 午前5時頃に家を出て、ETC通勤割引を利用しつつ岐阜県高山市の臥龍桜に着いたのは午前10時前。ゆっくり堪能しても10時少し過ぎには出発できた。(臥龍桜のレポはこちら) そこから手持ちの地図には載っていなかったのだが、道の駅「ななもり清見」あたりからスコーンとトンネルがぬけていて、意外に短時間で東海北陸自動車道飛騨清見ICに着くことができた。名古屋の中心部を避けて、いったん県道に出て、蟹江ICから東名阪自動車道に乗る。それほどひどい渋滞もなく、楽勝で奈良に着けるか、と思っていたが、木曽川を越えて、東桑名を過ぎたあたりでビタッと流れが止まってしまった。 ついにゴールテンウイィークの渋滞につかまってしまった。伊勢湾岸自動車道との合流の四日市ジャンクションで渋滞しているというから、下におりてそれを避けようかとも思ったが、手持ちの広域地図ではルートもよくわからない。仕方がないので、じっと我慢でノロノロ進んだ。桑名から四日市まで、ノロノロと1時間以上かかってしまった。 亀山からはどうしてこれが無料なのかと思うくらいしっかり高速道路である名阪国道に乗る。ここでも原因がよくわからない渋滞が伊賀あたりまで続いた。いいかげんイライラする。自分も渋滞を作りに来た他県ナンバーの一台なんだけどね。 名阪国道は針でおりて、大混雑している大きな道の駅針テラスでトイレ休憩。それから国道369号で南下して目指す黒滝村に向かった。 おお、ここが吉野の桜の吉野山かぁ、と、もう桜も終わった吉野山を見ながら通り過ぎ、ようやく集合場所の道の駅「吉備路黒滝」に着いたのは、午後6時少し前。もう金さんのキャンカー伴駈巣の姿があり、なんちゃんや春爛漫さんも着いていた。 ここで金さんからもうすでに関西の人たちと2日の日に先発隊として双門の滝に行ってきたのたが、霧で見られなかったということを聞く。事細かい状況を教えていただき、我々はとにもかくにも宿へ。自動車の移動だけでヘトヘトだった。 その後、伴駈巣は参加者が集まって居酒屋と化したらしいが、我々は宿にて午後9時には就寝。ぐっすり寝ましたとさ。 ちなみに民宿は、道の駅「吉備路黒滝」から自動車で10分弱の食堂あきちゃん経営のもの。1泊2食8500円。あまごの焼きものやさしみのついた夕食だった。どんな安宿でも浴衣はついていたものだが、あきちゃんにはついていなくて、Tシャツで寝ることになってしまった。ちょっと寒かった。 いよいよ双門へ 早朝まだ暗い頃に民宿を出て、集合場所の道の駅へ。 午前5時少し前に着いたが、我々の仲間ばかりかかなり数多い自動車が止まっていた。みんな自動車で宿泊したらしい。テントまである。 ようやく白みかけた空のもと、あちこちの自動車から人が起きだしてきていた。我らの仲間も起床である。と、並んだ自動車の中に見慣れたナンバーの赤いフェラーリ(笑)がある。おや、まあ、すぱ様。しばらくネットで名前を拝見していなかっただけにかなり意外なドタ参だ。 昨日到着前に我々は宿に行ってしまったが、ふたつぎさん、あじゅさん、えーちゃんも揃って、準備オッケーである。 金さんはさすがに双門を短期間でダブルアタックはできないと今回は見送り。また今度行きましょうね。 金さんの情報で車高の高い自動車ならゲートを越えて林道をかなり進めるとのことなので、なんちゃんと春爛漫さんの自動車に分譲。金さんに見送られて道の駅を出発した。 道の駅がある道は国道309号である。この道、おいおい、国道か?と突っ込みたくなるくらい細くなる。途中洞川温泉への分岐を通り過ぎたりしてさらに奥に入るのだが、普通なら林道くらいの広さしかない道を右手に弥山川を見ながら走る。くねくね走って行くと、川を渡る橋があり、その近くに2〜3台の自動車が止まってした。 ここが林道の入り口「熊渡」らしい。 その橋を渡るように右折。すぐに開けられているがゲートがあった。ゲートのそばに弥山登山道双門ルートのイラスト看板がある。 おお、これが例の看板かーー、とばかりに、参加者が自動車を降りて写真をパシャパシャ。うーむ、看板も嬉しいったらありゃしない。(あとでよくよくこの看板の写真を見てみたが、恐ろしく簡単にしかし的確に書かれたイラスト地図でした) くだんの案内看板。と、それを撮影する人々(笑) 黄色い看板が登山道通行止めの看板。赤い看板は禁漁。河原に下る道には先行者。 それからまた自動車に乗り込み、でこぼこの道を15分ほど走って、駐車できるスペースに着いた。自動車で15分の距離は徒歩にしたら1時間以上になるだろう。金さん情報に感謝である。 仕度をして出発。我々と同じくらいに(熊渡に自動車を置いてきたらしい)カップル1組と男性1人が河原に向かって歩いて行く。あの人たちも滝を目指すのかなぁ、それとも弥山を登頂するのかなぁ。 駐車スペースから河原に出る道には弥山登山道通行止めなどと書かれた看板があるが、あっさり通り過ぎる。 結局6時半少し前に河原に着いた。 白川八丁からガマ滝 駐車スペースから下る感じで道を進み、橋を渡り、さらに少し下って行くといきなり道は河原に吸い込まれるように無くなってしまう。 河原と言っても、実は川本体である。水は伏流になっていて全く見えないが、確実に川底なのだと分かるごろごろした石が敷き詰められている。 だが、伏流となる期間が長いためか、かなり太い木がごろごろとした石の間からにょきにょき生えていたりする。なんだか不思議な光景である。 このちょっと歩きづらい白川八丁と呼ばれる河原、というか川底を歩くこと15分ほど。やっとちょろちょろ水が見えてきた。そこで先に行っていたカップルが休憩中。どう見てもちょっとお散歩程度の軽装なので、ここいらで引き返すのかもしれない。 河原に下る道。たぶん自動車は入って来れない。 不思議な光景の白川八丁。遠くの山々にはヤマザクラが咲いている。 ようやく水が見えてきた。 写真では分かりづらいが、前方に橋が崩れて垂れ下がっているのが見える。 我々は先に進み、最初の滝になるガマ滝前に到着した。歩き始めてから20分である。 このガマ滝、ものすごく広くて綺麗な壷を持っているのだが、いかんせん水量が少なかった。まるで雨どいを伝っている雨水くらいの水量しかない。 ついでながら、ガマ滝の滝つぼには本当にガマがいた。しかも、産卵中。 最初ゴミかと思っていた滝つぼの中の黒い点々はすべてガマの卵で、ガマ滝って、ガマ蛙の滝だったのかー、と妙に納得してしまった。 ガマ滝 真ん中につーっと水が落ちているのがわかるかなぁ。ホント雨どいでした。壷は広くて綺麗。 ガマ滝のガマ(笑)卵製作中。右はガマ滝上のダムとその上の堰堤。 ちなみに、ガマ滝のすぐ上は小さなダムになっていた。このダムの水量調節のせいでガマ滝が細くなったり、弥山川の伏流ができたりするのかもしれない。 このダムのあたりで、暑くなってしまった。それもそのはず、早朝は5度くらいしかなかったので、かなり着こんでいたのである。ここで薄手のセーターを脱いだ。 岩場から一の滝 ダムから先は右手に川を見ながら進んで行く。 いきなり朽ち果てた鉄製の梯子で堰堤を越え、崩れ去った梯子を横目に見ながら回避ルートを歩く。とりあえずまだ崖ではないので梯子や橋が崩れていても脇から斜面を使って前に進めるのだ。 それでもかなりの急斜面を木の根っこを頼りに登ったり、苔むした大岩の斜面を足元を確認しながら横切ったりしなければならない。時々ルートを見失いそうになるが、木のどこかに赤いテープがついていて、そちらを目指すようにする。 どうにかこうにかガマ滝から30分ほど斜面と格闘してもう一度河原に出た。双門弥山線歩道と書かれている杭がある。 顔を洗ったり、タバコを吸ったりして小休止。私はここでもう一枚シャツを脱いで、半そでのTシャツとジャンバーだけになった。 うわっ、橋が崩れている。これは脇を通って行く。右は分かりにくいルートを示す赤いテープ。 河原に出た所で小休止。寒かったのに、汗だくになっている。 渡渉点。絶妙に大岩が並んでいる。 小休止した場所から5分も歩かずに弥山川を渡渉する場所に出た。これがわざと造ったのか、うまい具合に自然にできたのか、大きな飛び石が連続していて、難なく渡ることができる。(私は渡渉が苦手なので、少々難アリでした) 渡渉して、しばらく木のテープを頼りに登って行く。だが、そのまま登ってしまっては道をはずれる。途中で河原に下りて行くのだ。 先頭に立って歩いていたすぱ様がこっちじゃないと気づき、一番後ろのほうから下に行くんだ、下だ、と声がした。 真ん中を歩いていた私がどういうワケか下に最初におりるハメになった。行けるわけないじゃん。河原には出たものの、人の背丈ほどもある大岩にいったいどうしていいんだやらと迷っているうちにふたつぎさんやえーちゃんが先に岩を登り始めた。 と、危ない!という声がした。あら、何かしらん。岩が危ないのかしらん。 と、思っている間に上からガラガラという音が。 どひゃー、危ないって私のことじゃないの。 先に立って歩いていたすぱ様のちょうど真下に私がいて、彼が落とした石が私めがけて落ちてきていたらしい。 らしい、というのは、本人には石は見えていないのでさっぱりわからないのだ。 よけろ、だの、逃げろだのと声は聞こえるが、目前は川。先も後ろも岩。それにいったいどっちに石が落ちて来ているのよぅ。と、どうにもできずにただ手で頭を覆うだけだった。幸い石は別の方向に行って事なきを得たが、ここで石に当たっていたら、この後の苦労はなかっただろう。ってか、今でも包帯巻いていたでしょう(笑) そんなこんなで危機を脱出したが、実際問題の危機は深刻だ。岩を登れない。おお、こいつが金さんの言っていた「足が届かねぇんだよ」という場所か、などと納得していられない。 段々状に水に削られた岩を利用して足場にして、わずかに打たれた鉄の杭を頼りによじ登る。先に登ったダンナが手を貸してくれるのだが、私体重が重いのよ。全体重預けたらダンナごと水に落ちそうだ。こんな場面でダイエットの必要性を痛感する。 どーしてこんなふうに鉄の杭を打つのよ、もっと楽な場所に打ってよ、とかなりぶーぶー言いながらなんとかよじ登った。 岩を登って川をへつる。って、アクロバットじゃないのよ。鉄杭、ぐるぐる動くし。 この大冒険を終えて、山を10分ほど登ると目前に一の滝の姿が見えて来る。 最初目に入るのは一の滝前のつり橋だが、そちらにまっすぐに道は続いていない。つり橋手前でつり橋よりずっと上のほうに登って行く。登りつめると一の滝のまん前だ。苦労してここまで来た分、この一の滝はものすごくすがすがしく、美しく見えた。 一の滝、二の滝 下が一の滝、上が二の滝。写真にすると小さく見えるが、かなり大きいです。 人によって、これが二の滝全部だとか、二の滝三の滝だと言う人もあるが、このサイトでは一応下が一の滝、上が二の滝ということにしておく。 正確にはわかりません。 結局10分ほどめいめいが写真撮影をした。 一の滝前からつり橋まで下りて行き、つり橋を渡る。と、後ろから誰かが虹が出たぞ、と言った。 ちょうど日光が差して、一の滝の下に虹を作っている。なんだかステキなプレゼントをもらったような気分だった。 虹がわかるかなぁ。これはつり橋を渡ったあたりから撮影。一の滝である。 つり橋からも滝がよく見える。つり橋と一の滝の関係は右写真。写真の左端の白い部分が滝。 連続梯子登場 つり橋を短い梯子で下り、ちょっと登るとついに梯子が出現した。冗談で一の滝のつり橋の梯子が1つ目かね、と言っていたら本当にそうだったらしく、梯子のナンバーは2だった。 金さん情報によると、登りの梯子は28。その後は4つの梯子を下って、双門の滝に出るという。 いよいよ来たか〜、連続梯子。これで一気に高度を上げるという噂の梯子である。 ただ梯子自体はつり橋より下流の朽ち果てた梯子とは違ってガッチリとした新しいものである。どんなに体重が重い人でも多分大丈夫だ。むしろルートが分からなかったり、足元が不安定になったりする何も無い登山道よりは安心できるかもしれない。 とにかく、ガッチリつかんで、ガッチリ足をかけた。 これがしかし、時々間隔がバラバラになることがあって、足をひっかけ損なうことがある。怖い。手元足元をいちいち確認しながら登る必要がある。私は一度足をひっかけ損なって思いっきりすねを打ちつけてしまった。ここでかすり傷一つ(笑) これが噂の梯子。横棒は2本ずつの鉄棒になっていて、安定感がある。 梯子は延々と連続して続いているわけではなく、要所要所にあるといった感じだ。梯子のない場所は斜面を登って行くことになる。 が、新緑のこの季節はまだ下生えが枯れ草の状態で踏み跡らしい踏み跡がきっちり残っていない。よくよく注意して木の赤いテープを見落とさないように登って行かないとルートをはずれる。 右手に一の滝二の滝の上流の流れが見えるのだが、木々が阻んで全容はわからない。大きな岩の下をくぐる場所の手前からとても美しい滝つぼが見えたのだが、滝本体は見えなかった。どうやら三の滝らしい。しかし、ここはパス。帰りに余力があったら寄ろう。 三の滝の上流も二条に落ちる滝の流れなどが見え隠れしているが、右も左も絶壁に近い尾根になり、両側に滑落防止のロープが張ってある。ロープと言ってもただ道すじを示しただけのもので、それを命綱にできるわけでもない。 時折、なんでここに梯子つけないのよぅ、というような斜面をよじ登り、うえっ下が丸見えじゃん、という梯子を横にしただけの橋を渡り、そろそろナンバー28の梯子というあたりまで来た。 でも、まだ登りは続いていた。 梯子はどーしたの、梯子はぁぁぁ。 と、嘆きたくなるような岩が目前にあった。 一応鎖は垂れている。でも、どこにどう足をかけていいんだやらさっぱりわからない。 私のすぐ前に行くあじゅさんが鎖の右側から登ろうとして、あ、やっぱりこっちからだ、と左側に移動した。下から見ていると右側のほうが登り易そうなんだけど。 で、私の番になって、上からあじゅさんが心配して、鎖を頼りにして登るしかないよと教えてくれた。 とにもかくにも、鎖にとりつく。そして、楽そうに見えた右側に体を移してゾっとした。 空中にポンッと体が投げ出された気分だった。そこから先には何もないのである。とりあえず左側は斜面ではあるけど雑木が生えていて、転げてもひっかかりそうだ。慌てて左側に移動。 「わ、私ダメかもしんない」 後ろに控えていたなんちゃんが慌てた。そりゃそうだ、こんな所でギブアップされても困るだろう。ザイルを出そうかと心配してくれたが、問題は恐怖心なのでザイルはあってもなくても同じだ。 ここで心を支えてくれたのが、「春爛漫さんや金さんもここをクリアしたんだ」ということ。いや、スミマセン、オーバー60エイジのお二人がクリアできて、永遠の28歳の私がクリアできないなんで言えないじゃないですか。 気持ちをグッと引き締めて、鎖をつかむ。よじ登ったはいいが、そこから先の手がかり足がかりが、わからない。上からあじゅさん、下からなんちゃんが心配してくれて、とにかくなんとかジタバタクリアできた。 帰りが心配。 登った先に少し広い場所があって、春爛漫さん、えーちゃん、ダンナが待っていた。女房の危機を他人にまかせて休んでるな、我がダンナ。 もう28の梯子を登ったので、あとは下りの梯子が4つあるだけだ、と、とりあえずホッとしていた。 が、まだ先はあった。今度は踏み跡を登る、下る、登る。下手をすると踏み跡らしい踏み跡はないので、またしてもルートを見失ってしまう。 下りの梯子はどこ〜? 5分ほど進んで、やっと梯子が出てきた。う、長い。この長い梯子が1つとカウントされるのか、いくつかの梯子なのか。 三の滝の上のロープで道を示してある尾根。 いよいよ梯子攻勢の終盤、横に渡された梯子。下に古い梯子が見える。 右は岩の鎖場あたりの梯子。高いよぅ。 ようやく下りの梯子になった。 滝は〜?まだ先はあるの〜?と先行者に問いかけると、あったあった、着いたぞ、と答えが戻って来た。 着いたって、どこに滝? 梯子の到着する場所はよく見てとれる。かなり広い広場なのである。 だが、その広場の向こうにかすんで絶壁が見えた。その絶壁に滝は落ちているのである。 ついに双門の滝 梯子を下るのももどかしく、広場に下り立つ。そこが通称双門の滝前のテラスだ。テラス部分は梯子からだいぶ向こうで、その前に広場があるのである。広場を横切ると、おお、写真集で拝んだ滝があった。 テラスから遠く離れた絶壁を二つに割って落ちている。 イメージからすると狭い狭い狭〜い空間から覗いて、どこまでも狭い谷の奥にある滝のような感じだったのだが、意外にも滝前は開けていた。ただ滝の落ちている場所だけがググっと絶壁から引っ込んでいる感じである。 それに、落ち口があんなに段々になっていたのか。 実物を見ないとよく分からないものなだなぁ。 双門の滝 緑が濃くない季節のおかげで滝つぼまで見通せた。 左、落ち口。岩盤が深く落ち込んでいて、段々になって落ちている。 右、滝つぼ。意外と浅そう。でも、遠い位置なのでそう見えても深いかも。 写真集なんかで、岩が邪魔だとか木が邪魔だとかいう、その岩も木もしっかりあった。本当に邪魔でやんの。 テラスから先は対岸と同じ絶壁なのだと容易に想像できた。ちょっと怖くて縁には近づけない。 だというのに、危険なまねをして邪魔な木を排除して撮影しようとトライするえーちゃん。やめてってば。本人は安全を確認していても、見てるほうが怖いってば。 意外と横方向に移動できるテラスでなんとか岩と木入らない場所を見つけて撮影する面々。 私は怖いので一歩下がって広場から見ていた。 ダンナが足がかりにしているのが、よく邪魔にされている木。 木にしがみついて、三脚の先にカメラをとりつけ撮影中のえーちゃん。 ちなみに、木の下は断崖絶壁。リスクの割りに効果はないので、決して真似をしてはいけない。 双門前のテラス。かなり広い。赤い矢印の先がえーちゃんのしがみついた木。 ここから先も登山道は続いている。 この先が難所になり、空中にぶら下がっている梯子があったり、ただ側面の岩壁に打ち込まれた鉄杭だけを足がかりに進む場所ありと、とてもじゃないが遊び半分で行ける場所ではない。 我々は双門の滝が目的なので、ここで引き返すことにした。 それにしても気がかりは、登り28箇所の梯子を終えたあたりの岩。登りであれだけ怖いんだから、下りは飛び降り自殺するくらい怖いんじゃなかろうか。今から震えてしまう。 とにかく、そこを通過しなくては戻れない。先に進むことも無理なんだし、怖い怖いとは言っていられないのだ。 やっと見れた双門の滝に20分強で別れを告げて、来た道を戻り始めた。 行きはよいよい帰りはこわい えー、薄々気がついていたんですが、私、下りがものすごく苦手です。 梯子がある場所はなんてことなく下れるのだが、そうでない場所、特に何にも無い斜面は普通の人より歩みが遅い。ものすごくのたのた歩く。 それを承知していたので、帰り道にはダンナにきっちりつきあってくれと釘を刺しておいた。とにかく尋常でなくノロいので、最後尾以外で歩けない。 一番後ろから例の岩場に来てみたら、あら怖い。先を進む人たちがまるで身投げしているみたいに見える。それほど高度感がある。 でも、どういうワケかあれほど怖かった岩場、すんなり通過できた。下りのほうが無理やり重力に逆らって体を上に持ち上げなくてはならない登りよりも力がかからないからかもしれない。 あっさりと、しかも写真なんか撮りながら通過。 これが恐怖の岩の鎖場。 岩の鎖場あたりを下りる。まるで空中に飛び降りていくような高度感だ。 下から登山者が来るよ、という声のたびに待つ。 さすがに梯子ですれ違いはできないし、梯子のない場所でもすれ違える場所は少ないのだ。 驚いたことにすれ違う登山者はだいたいが中高年のカップルである。このオバサンがこの先行くのか、といった感じの人まで歩いて来ている。思わず頑張ってくださいと声をかける。私達は滝までだが、きっと彼らは弥山を登頂するのだ。無事に登頂できますように。 もっとも無事に帰りつけるかどうかは、わが身のことでもある。 何度も言うが梯子はいいのである。比較的楽にすいすい下りられる。 ところが斜面。片足に体重をかけられなくなって、すり足でひょこひょこ歩く始末。いや、この時点ではまだ筋肉痛は無い。足がカクンとなって体重を支えられないのだ。登りで知らず知らずの間に無理をして足がもたなくなっていたのかもしれない。ダンナとの距離も離れて、しまいに軽くコースをはずれたりした。いや、危ない危ない。ついでながら、ずるっと滑って転んで、その転んだ場所に岩があってしたたか打ちつけた。青アザ一丁あがり。 それでもしっかり三の滝の滝前には行くつもりだった。で、とりあえず双門の滝を出て1時間後には三の滝の前に行く岩をくぐる場所まで来た。来てみると、三の滝の前に下りるためにふたつぎさんがザイルを張っていてくれた。これなら安心して下りられる。ありがたいです。 三の滝前 ザイルを使って斜面をおりて、登山道からは滝つぼしか見えなかった三の滝の前に出た。 うわーっ、と思わず声が出た。 ものすごく綺麗なのだ。ちょうど滝に太陽が当たり、深いブルーの滝つぼがキラキラ光っている。なんとも美しい。おのおのが滝前の岩に陣取り、撮影開始になった。 三の滝 写真にするとコントラストがきつくなるが、目で見ると、ものすごく綺麗でした。 滝つぼに光が集まって、別世界のようだ。 私はかなり消耗していたので、エネルギー補給だ。ここで昼食の予定だったが、どうもこの様子では撮影に時間がかかりそうである。 滝前のやや広い平らな岩にぺたんと座りパンをかじった。美味でした。 三の滝前。各々が勝手に撮影中。 さて、そろそろ撮影の気も済んだし、腹を満たそうよ、と思った所でかなりハードなできごと(動物の滑落事故)があって、昼食はお預けになった。 結局三の滝の前には30分以上いたことになる。 ご苦労様でした 三の滝からの帰路は、行きの登りよりも大変だったような気がする。 三の滝から一の滝までの巻き道は例によってひょこひょこ歩かなくてはならなかったし、一の滝下の岩場は行きにどう登ったのかさっぱりわからないくらい怖かった。ふたつぎさんが常に危ない場所で待っていてくれて、ザイルを出そうか、荷物を持とうかと言ってくれる。一箇所どうしても背中のリュックが邪魔で下りられない場所があって、荷物を持っていただいた。本当にありがとうございました。 そこからガマ滝までのなんでもないと思っていた道も意外に険しく、こんな道通ったっけ〜?とぶうたれながらひょこひょこ歩く。 途中、行きはジャンプしてクリアした場所でまたしてもふたつぎさんが待っていてくださった。ってことは、危険なんだな。ザイルを出そうかと言ってくれたが、そこはなんとか自力で通過。 少し歩いて、ガマ滝上のダムの青い水が見えた時には心底ほっとした。 ツツジが咲く道を行く。 ノタノタ歩くので、花の撮影までしてしまっている。 ガマ滝前で少し遅くなったが昼食休憩。ここでガマに向かって石を投げていた連中、ガマに祟られて油を流しなさい(笑) この時点ですでに午後1時過ぎなのだが、青年が一人やって来た。 ガマ滝から見える橋が崩れているのを見て、どうしようか迷っている様子だった。しばらくそちらに偵察に行って戻って来た。 我々と一緒にガマ滝前で休憩していた初老の男性2人が先に登って行ったのを見て、我々にこの先は行けるのかと尋ねてきた。 滝までは行ける、とか、2時間あれば滝に着くとか、口々にアドバイス。でも、今から行くと帰るのは夕方だぞ。 どうするのかと思っていたら、青年は足取り軽やかに登って行ってしまった。いいなぁ、若いって。無事に行ってきてね。 ガマ滝前で30分強昼食休憩のあと、だらだらと白川八丁を歩く。 双門の滝を見た達成感と脱力感とやるせなさがつきまとっている。まだ2時を少し回っただけだというのに、すっかり夕暮れのような気分になっていた。 14時10分くらいに駐車スペースに到着。ご苦労様でした。 河原をダラダラと歩く。駐車スペースに来た時は、みんな笑顔に。 再び2台の自動車に分乗して道の駅まで戻る。途中、国道に出たというのにすれ違いができなくて、えんえんバックで戻らされたりしたが、午後3時頃には道の駅に帰り着くことができた。 我々はこのあと、せっかく来たんだからと名水百選の水を求めて天川村の洞川温泉へ。(温泉と湧き水のレポはこちら)他の面々は大台ケ原の中の滝へ向かうとか向かわないとか。だが、GWを渓谷やら温泉やらで過ごした自動車の渋滞が奈良市方面に向かってすでにできていた。宿に行く時刻もあるので、お別れの挨拶もそこそこに道の駅を出た。 まとめ いろいろあったが、本当に大勢の力でなんとかこんな私でも双門の滝を見ることができた。 これでちょっと秘境と言われる滝なら怖くないぞ、という自信ができたかというと、そうでもないんだけど。 秘境の滝は、オフに限るなぁと甘えた考えができてしまったようである。 来年はどこの滝に行きましょうねぇ、皆さん。足手まといが行くけど、その時はよろしくね。 今回は本当にありがとうございました。 その後 天川村に向かった我々は百名水の水汲み場だけ見て、超混雑している温泉に入浴し、渋滞が解消された黒滝村を通り過ぎて下市町で夕食を取りビールを購入して東吉野村に入った。この日のお宿は観光旅館「杉ケ瀬」。窓辺から高見川が見下ろせる旅館だ。温泉ではない。一泊朝食つきで1人7000円なり。やたら静かな旅館で、午後10時には爆睡してしまった。 が、この旅館に入ってすでに筋肉痛が始まっていた。階段が下りられない。ものすごく痛い。トイレで意を決しないとしゃがめない。つつつつ辛い。 翌日、東吉野村の滝を少し回ったのだが、よちよち歩き状態。新潟への帰路でも、自動車から降りるのに息を吸い込みせえのと言わないと立てない始末だった。その翌日、さらにひどくなり、また翌日笑いたいくらい痛くなった。主に左足の膝のすぐ上の表側の筋肉で、階段を下ったり、しゃがんだり、立ったりするときに激痛が走る。これはもしかして筋肉痛ではなくて肉離れかと思ったが、その翌日会社が始まる日の朝にはケロっと治っていた。やっぱり筋肉痛だった。 ものすごい筋肉痛でも3日すると治ると分かったのは収穫だった。 新潟への帰り道、名古屋あたりでまた渋滞にハマるかと思いきや、それほど渋滞していずに、むしろ長野道で新潟に向かったのだが長野と新潟の県境あたりで対面通行になるのが原因なのかピタッと止まってしまった。 あとちょっとで新潟なのに、こんな場所で渋滞食らうか〜。さっさと2車線化してくれ。そんなこんなで我が家に着いたのは午後9時過ぎ。いやはや、夢のように怒涛の勢いで通り過ぎた3日間だった。 おまけの東吉野村の滝はこちらから |
||
双門の滝オフ、参加者 なんちゃん、春爛漫さん、ふたつぎさん、あじゅさん、えーちゃん、すぱ様、金さん(道の駅でお見送り)、んがお工房 |
||
交通 双門の滝 最寄ICは、どこになるんだ?(こらこらこらこら) 我々が行ったルートは本文をご覧ください。天川村総合案内所でもらったパンフレットによると自動車の場合は橿原神宮から国道169号で25kmで大淀。大淀から国道309号で25kmで天川村だそうだ。 国道309号で下市町、道の駅「吉野路黒滝」のある黒滝村を通り越し、天川村に入る。天川村の総合案内所を左に見ながら川合という交差点で左折する感じで国道309号をひた走る。すぐに洞川温泉に行く道が左に分かれるが、そちらには行かない。とにかく国道309号をはずれないように走る。細くなるがずんずん走る。 やがて道は右手に川を見て走るようになる。左は岩盤である。かなり細くなる。 その川を渡る橋があったら「熊渡」。通常はここらあたりに自動車をとめて、橋を渡り徒歩で林道を登る。林道の入り口には困難をきわめる弥山双門コースのイラスト看板があるのでよくチェックする。ゲートが開いている場合は、車高の高い自動車なら白川八丁に下る道が分かれる所まで自動車で行ける。 そこから先は本文中を参考にして欲しい。 参考までに私が通過した時間を書いておく。 通過時刻 道の駅「吉野路黒滝」・・・・・・・・5:30頃・・・自動車移動 熊渡看板前・・・・・・・・・・・・・・・・6:05・・・・・自動車移動 駐車スペース・・・・・・・・・・・・・・・6:15 白川八丁・・・・・・・・・・・・・・・・・・6:25 ガマ滝・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6:40・・・・・撮影休憩 河原の双門弥山線歩道の杭・・7:15・・・・・小休止 渡渉・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7:23 岩場・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7:33・・・・・危険 落石の危険もあり 一の滝、二の滝・・・・・・・・・・・・7:50・・・・・・撮影休憩 梯子スタート・・・・・・・・・・・・・・・8:05 三の滝入り口のくぐり岩・・・・・・8:15・・・・・この先道をはずれる危険あり 梯子を渡しただけの通路・・・・・8:55・・・・・・危険 ここまでの間に小休止2回ほど 登り梯子終了・・・・・・・・・・・・・・9:18・・・・・・危険 この辺りに岩の鎖場あり 双門の滝テラス到着・・・・・・・・9:25・・・・・・撮影休憩 双門の滝出発・・・・・・・・・・・・・9:55 難所の鎖場・・・・・・・・・・・・・・・10:15 三の滝前・・・・・・・・・・・・・・・・・10:58・・・・・撮影他 一の滝、二の滝・・・・・・・・・・・・12:00 ガマ滝・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13:10・・・・・昼食 駐車スペース・・・・・・・・・・・・・・14:10・・・・・帰路に時間がかかっているのは、私がノロいせいです。 注意 あまり山慣れしていない私でも行けた双門の滝であるが、あくまでも大勢の手助けがあってのことだ。 三の滝前のヘビーな出来事を読まれた方もあるだろうが、楽観して行ける場所では決してない。 一歩間違えば命を落とすコースなのである。 事前のチェック、無理をしない計画、連絡するための道具、身の安全を守る道具、等々、装備はあくまできちんとして臨んでほしい。 また、天候などにより川や道の条件が急変することもある。 あくまで事故の無いように心がけて行動してほしい。 出かける前に今一度、自分は大丈夫なのか、計画は万全なのか、よく考えてみてください。 装備としては、梯子が多いので軍手よりも滑りにくい手袋が必要だ。足回りは登山靴で充分。濡れる心配は無い。春先の場合は朝からの気温の変化が大きいので、脱ぎ着できる服装がよいだろう。途中水を補給できる場所は無いので、水分は多めに持って行くこと。 また、トイレは黒滝村の道の駅より先は多分無い。(天川の総合案内所にあったが、早朝に入れるかどうかは未確認) 実は私は行きの白川八丁のあたりからずーっとトイレに行きたかったが、できる場所なんかありゃしませんでしたとさ。でも、汗も出たので道の駅に戻るまで我慢できました。おほほ。 途中でかならずエネルギー不足になるので、簡単につまんで食べられるものも持って行くと心強い。みんなパンにかじりついていた。 |